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2014年8月6日水曜日

「Youtube」

「初頭効果」という言葉があります。
人は、一番最初に聞いた情報を最もよく記憶する、という心理学上の概念です。
この心理的現象を尊重した、法廷での弁護技術があります。
たとえば、弁護人として主張を伝えるとき、インパクトのある主張を意識的に最初に持ってくる。
証人を尋問するとき、もっとも裁判官(裁判員)に注目してほしい事項を最初に聞く。
こうすることで、主張の重要部分を記憶に残るようにし、かつ、出だしのインパクトによって主張全体に興味を持ってもらうことができます。基本的な法廷弁護技術のひとつといえます。

さて、表題ですが、ご存じのとおり、Youtubeは動画配信サイトです。私も、結構利用します。
ここで取り上げたいのは、動画の最初に流れるCMです。Youtubeでは、動画の最初にCMが流れることがあります。動画とは関係ない、一般的な商品などのCMです。

このCMの多くは、5秒経過後にスキップできることになっています。

つまり、これをCMの配信主体である企業から見れば、5秒の間に興味を持たせられなければ目的のCMを流すことはできないということです。
これは、上に書いた法廷技術、つまり一番最初の主張にインパクトを持たせる、ということと非常に共通しています。
しかも、最初の5秒で視聴者の興味を持たせなければ、(法廷での弁護人の陳述を裁判官は一応きかなければいけないのと異なり)自分の主張自体をすべて聞いてもらえなくなるので、よりシビアです。
さらに困難なことには、だれもCMを見に来ている人はいないということです。弁護人の弁論は一応そのための時間が与えられていて、裁判官も一定の興味を持っています。しかし、CMを目にする人は、CMでなく明らかに動画を見に来ています。好きなアーティストのPVだったり、名プレーヤーのテニスの試合がすぐに始まることを期待してクリックしているわけです。CMは、動画を見るための邪魔者にすぎません。
これは、CMを配信する側からすれば、かなり悲劇的な状況であるといっても過言ではありません。

僕も、ほぼすべてのCMを5秒でスキップします。
いろいろなCMがあります。最初の5秒がBGMのイントロだけで終わってしまうCMなどは論外。最初に商品名を声高にアピールするCM、商品の効能や実績をアピールしようとするCMなど、5秒間を意識したと思われるものもありますが、やはりほぼすべてをスキップします。

そのような中で、先日、最後までCMを見たことがありました。そのCMの出だしはこうでした。
(高校生が)「また間違えてる」(高校生の視線の先に挙動不審の外国人)
そして5秒をすぎるあたりで、外国人が高校生に何かを訪ねようとしてきます。
結局これは、「富士山(ふじさん)駅」に行きたい外国人が「富士山下(ふじやました)駅」(※群馬県所在)と間違えたというストーリーでした。


後から振り返ってみるとすごくうまいと思います。
まず「間違えている」というメッセージ。他人の間違いや失敗に興味を持つのは人の常です(笑)
しかも「また」ということで、よくある間違いだということを強調。どんな間違いなのだろうという興味を引き立てます。
そして、5秒過ぎてスキップができるようになるあたりで、外国人が話しかけてきて、間違いの内容が分かりそうになる。スキップせずに知りたくなります。
これで、僕は5秒過ぎてCMを見続けました。

CMの商品は、Googleの音声検索でした(高校生がスマホの音声検索で富士山駅までのルートを説明する話)。
出だしの話は、直接には商品と関係がありません。しかも、僕自身商品に特に興味があったわけでもありません。しかし、それでもGoogleは僕にCMを見せることに成功しました。

人を引き込むストーリーの出だしは決まった形はなく、いくらでも工夫の余地があります。
それをこんな場面で知らされることになるとは。
日常触れる何気ない場面にも、弁護技術のヒントが隠されています。