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2015年2月11日水曜日

「刑事事件の弁護士費用」

近時,弁護士の広告宣伝が解禁され,インターネット上でも,様々な法律事務所が広告を行うようになりました。
また,弁護士費用の設定についても,各法律事務所で様々な個性が見られます。
以前は,弁護士会が,各弁護士の報酬の標準を定める基準を作り,多くの弁護士が,これに従った価格設定をしていました。しかし,数年前,この基準は撤廃され,弁護士費用の設定は自由になりました。

費用の設定が自由であることはとても重要です。
費用の設定が自由であることによって,各弁護士事務所が,よりたくさんの人にご相談に来ていただくことができるような価格設定を競争します。価格設定に対して,よりよい法的サービスを提供できるよう,法的サービスの質をも向上させます。
こうして,全体として見れば,一般の方々によりよいサービスをより安価で提供することができるようになりますし,依頼人から見れば,より良い法的サービスにアクセスすることが容易になるのです(もちろん安いばかりがいいというわけではありませんが)。

このように,一般の方々がよりよい弁護士の法的サービスを受けられるようになるために,価格設定の自由は非常に重要なことだと思っているのですが,近時,「この価格設定は問題だろう!」と思う価格設定を目にすることがあります。



その1 保釈が認められた場合,保釈保証金の●パーセントを報酬とする

保釈とは,起訴後,拘束されている被告人を釈放するための手続です。一定の保釈保証金を裁判所に収めることで,裁判まで拘束を解放されるのです。
この保釈保証金の金額は,裁判所が決めますが,その際に弁護人が裁判所と交渉するのが一般です。依頼人の負担が少しでも少なくなるよう,交渉します。裁判官が200万といったら,150万で何とかなりませんか,と交渉します。
ここで,保釈金の額の何パーセント,という報酬基準だったらどうでしょうか。弁護人が交渉すればするほど,弁護人の報酬が下がってしまいます。弁護人に,依頼人のための粘り強い交渉が期待できるでしょうか。
弁護人は,依頼人の利益を追求する義務を負っています。ですから,弁護士の報酬は,依頼人のための活動と連動する必要があります。相手から回収した額の●パーセント,とか,無罪の場合は●円,という報酬の定め方であればよいのですが,依頼人が負担する保釈保証金を基準に報酬を決めると,依頼人の利益と弁護士の利益が相反してしまうのです。
弁護士は,依頼人の利益と自分の利益が相反する事件を受任してはいけない義務があります。弁護人の役割は,依頼人の利益のために活動することだからです。事件自体の利益が反しているわけではありませんが,具体的な弁護活動の場面で依頼人との間に利益相反が起こるような価格設定は,このような弁護人の義務・役割に反していると思います。


その2 捜査弁護の着手金●円(ただし,接見3回まで

捜査弁護とは,裁判になる前の弁護をいいます。身体拘束されている依頼人に弁護人が会いに行って(「接見」といいます),取調べに対する対応をしたり,身体拘束から解放されるための活動をするのが中心になります。ですから,接見は捜査弁護の最も基本的な活動です。
あなたが歯医者に行って「痛かったら,左手を挙げて教えて下さいね。ただし,3回まで。4回目からは,追加で費用が発生します。」といわれたらどうでしょう。痛いって言いにくくなりますよね。そもそもそんな歯医者には次からは行かないかも知れませんが。
接見も同じです。犯罪を疑われ,拘束された依頼人は孤独です。心の「痛い」を抱えています。一度でも多く接見に来て欲しい。しかし,3回までしか基本料金で来てもらえないのなら,接見に来て欲しい,と言うのを躊躇してしまいます。そういう状況で,果たして依頼人のためにベストな弁護ができるのでしょうか。
そもそも,捜査段階の弁護活動で,接見3回で十分な活動をできる事件は,少なくとも私の経験上は,ありません。正しい弁護活動をすれば,最初の3日で使い切ってしまう事件もたくさんあると思います。
弁護人には,受任した事件について,依頼人のために最善の努力をする義務を負っています。受任しているにもかかわらず,最大限の弁護活動を躊躇させるような価格設定は,この義務に反するおそれがあるのではないかと思っています。もし4回以上接見するには費用が十分でないなら,もっと最初から高い費用をいただいて,この費用でできることはすべてやる,接見回数の制限などもしないというほうが,よっぽど健全だと思います。


刑事事件の弁護士費用の設定は自由であるべきです。
しかし,それは,「依頼人のため」という弁護士の本分に反するようなものであってはいけないと思います。

なお,私及び私の所属する事務所では,保釈の報酬はいただいておりませんし,接見回数の制限はありません。
事件自体の着手金をいただけば,必要な弁護活動はすべて行います。