ページビューの合計

2015年8月10日月曜日

「教える」

先日、私の所属する東京弁護士会において、法廷弁護技術の研修が行われました。
私は、東京弁護士会で、法廷技術研修を統括運営する立場を務めると同時に、研修の講師も担当しています。

この研修は,裁判の法廷で行われる弁護活動を、実際の裁判さながらに受講生が実演をし、それに対して講師がコメントをする、という方法で行われます。
このとき,講師のコメントのやり方には,一定の決まりがあります。
それは,①伝えたいメッセージを簡潔に表現し②受講生の実演で問題のある部分を正確に引用し③何がまずいのか理由付けを述べ④具体的な改善策を示す という4つの手順です。

具体的にやってみましょう。
①伝えたいメッセージを簡潔に表現
「主尋問では、誘導尋問をしないようにしましょう」
②受講生の実演で問題のある部分を正確に引用
「今の実演で、あなたはこう証人に問いました。『そのとき、犯人の顔が見えたんですね』」
③何がまずいのか理由付けを述べ
「尋問者が、証人をある答えに誘導する質問、つまり誘導尋問は、尋問者の意図を証人に言わせているだけになってしまいます。検察官から異議が出ますし、裁判所にこちらの意図する事実認定をしてもらうこともできなくなります。主尋問では、オープンクエスチョンをして、証人自身に自発的に事実を語ってもらうようにしましょう」
④具体的な改善策を示す
「ですから、こう問いましょう。『そのとき、あなたには何が見えましたか』」

これは最も基本的な技術のひとつについてのコメントの一例を紹介したものですが、最近、この指導方法、何も法廷技術のみにとどまらず、「教える」ということに普遍的なものだと思うようになりました。
私は、大学院の後輩などに、司法試験の受験科目の答案について指導することがあります。
大学の部活の後輩に、(教えるほど上手でないことを百も承知で言いますが)テニスの指導をすることもあります。
そういうとき、私は常に上の指導方法を意識しています。
もちろんそのまま全部そっくり行うわけではありませんが、特に④具体的な改善策を示すということは、どんな指導にも不可欠だと思います。
優れた指導は必ず具体的です。「この答案の書き方はどうもわかりにくい」とか「君のフォアハンドはどうもよくないね」などといった抽象的な助言では何の意味もないのです。
どうすれば答案がわかりやすくなるのか、どうすればフォアハンドが良くなるのか、具体的にその人がどうすべきかを助言しなければいけません。「『~と解する』はやめて『~である』と書きなさい」とか「グリップを太くしろ!」とか、助言は具体的であればあるほど(それが取捨選択の対象になるという意味も含めて)役に立つと思います。

この助言には、助言をする側の能力がもろに出ます。
やってみるとわかります。自分が理解していないことについて、具体的な助言はできない。
法廷技術なら裁判の、法律の答案なら法律の、テニスならテニスの、深い知識と理解が求められるのです。

ですから、自分が「教える」機会のために、日々、いろいろなものに触れて刺激を受け、学び、知識や理解を深めるように努めなければなりません。
法廷技術研修や新人の指導など、自分が教える立場になることも多くなってきましたが、もちろん、まだまだ僕自身も足りません。これからも、自分に謙虚に、研鑽を積んでいきたいと思います。学んだことを他者に伝え、少しでも役立ててもらえればよいと思います。
そしてそのことこそが「教える」ことの本質ではないかと思う次第です。

さて、これから、明後日から始まる日弁連主催の3日間研修の準備です。

2015年7月6日月曜日

「民事もやるんですか?」

私の所属する事務所は、刑事事件を中心に扱っています。
すると、たくさんの人から、この質問をされます。

「民事もやるんですか?」

特に、私が刑事事件に力を入れていることを知っているほかの弁護士や、裁判官、検察官などからも聞かれることがあります。

やってます!笑

もちろん、ホームページをご覧になってお問い合わせをいただく方はほとんど刑事事件のご依頼です。しかし、刑事事件を担当したことで信頼いただき、その方から民事事件のご依頼を受ける例のほか、事務所事件とは別に個人として依頼を受ける事件など、相当数の民事事件も取り扱ってきました。
その中で、刑事事件の経験が民事事件にも生きるなあと思うことが多々あります。

ひとつは、交渉力です。
刑事事件の弁護活動では、たくさんの交渉を行う必要があります。
被害者との示談交渉。検察官との交渉。
そして、その交渉は、通常、マイナスから始まります。
依頼人は拘束され、刑事処分が迫っています。
場合によっては足元を見られるような交渉になりがちです。
そのなかで交渉を行うには、的確に先を見通し、交渉する相手の気持ちを考え、お互いにプラスになるような解決をできるよう、交渉に臨むことが必要です。こうした力が、事件を通じて鍛えられます。
民事事件も、相手との交渉になることがあります。民事事件では、こちらにも有利な材料が多い場合も多いです。刑事事件で培った交渉力が役に立つと感じられることが多々あります。

もうひとつ重要なのは、尋問技術です。
刑事事件では、常に証人尋問に直面します。
刑事裁判では、証人尋問が当事者の立証活動の中心になることが多いです。私たちは、事件を通じて、常に証人尋問を行っています。
また、刑事裁判に勝つため、事件の外でも尋問技術のトレーニングを行っています。
民事事件でも、証人尋問をおこなう事件があります。私も何件も経験しています。
このとき、刑事事件で鍛えられた証人尋問技術ほど頼りになるものはありません。
民事事件も、刑事事件も、証人尋問の本質は変わりません。むしろ、証人尋問の比率が大きい刑事裁判で鍛えられた尋問技術をもつ弁護士は、相手にとって脅威といえると思います。

このように、刑事事件の経験が民事事件にいきる場面は多くあります。
一方で、やはり、同世代の弁護士よりは民事事件の経験数は少ないので、私などはどうしても民事の知識の豊富さでは勝負できません。
知識の足りなさは、その都度事件を受けた時に、いつも以上にしっかりと調査することを心がけています。
そして、刑事事件で培った自分なりの武器をもとに、民事事件の弁護もとりくむようにしています。

最近気づいたのは、民事事件もとても魅力的な仕事ですね。
依頼人とともにあれやこれやと話しながら、いろいろな解決方法を模索するというのは、創造的でやりがいのある仕事だと思います。

2015年5月23日土曜日

「勉強や研究」

「実務に出ると、司法試験で勉強したことなんて忘れちゃうよね」

こういうことをいう弁護士がいるやに聞きます。
実務に出ると、日々の事件に追われます。日々の事件は、司法試験で勉強したような、法律の細かい解釈や判例の解釈を必要としない事件がほとんどです。だから、冒頭のような言葉が聞かれるのでしょう。

しかし、私は、絶対にそういう実務家にはなりたくありません。
私自身も、じゃあすべて司法試験の知識を覚えているかといったら絶対にそんなことはありません。忘れている部分もあります。ですが、それを当然とするのではなく、日々法律的知識・思考力の向上や、日々出される裁判例・判例のキャッチアップに務めたいと思っています。

この土日を使って、日本刑法学会大会に来ています。
刑事法の研究者の先生方、裁判官などが研究を報告されました。
刑事法概念の本質にさかのぼったきわめて学術的に興味深い研究や、裁判員裁判と刑法理論の架け橋といったような実務に大きく関係する問題まで、非常に充実した時間を過ごせています。

これまでたくさんの刑事事件を経験する中で、司法試験で勉強したことや、実務に出てから勉強したことが、本当に役に立っています。
それが法廷で武器になることを実感しています。
法廷で起こっていることが適切なことか、法廷に出された証人の尋問や証拠が適切なものかは、法律の条文、その解釈を述べた判例を理解していなければ、判断できません。
知識を忘れながらでも、勉強を怠りながらでも、慣れてしまえば「できてしまう」のかもしれませんが、ベストな弁護からはほど遠いものとなってしまうでしょう。

今後も、日々の事件に全力を尽くすことはもちろん、ベストな弁護をするための勉強や研究にも力を入れていきたいと思っています。

2015年5月16日土曜日

「ディフェンダーゼミ」

このたび、東京ディフェンダー法律事務所にて、弁護士向けの勉強会「ディフェンダーゼミ」を開催することになりました。
刑事事件の経験があまりない若手の先生方を対象に、刑事事件を担当したときの悩みや不安を、気軽に相談できる場というのがコンセプトです。

これまで、当事務所の弁護士は、それぞれ、刑事弁護の分野に関し、刑事弁護フォーラム、所属弁護士会での研修の講師や、日弁連の研修などにおいて講師を務めてきました。
ただ、こういった研修のほとんどは、大人数での座学であったり、法廷での実践的な技能研修であったりと、若手が身近な刑事事件の相談をするには敷居の高い場でした。
そこで、事務所単位で少人数の勉強会という形をとり、ざっくばらんに刑事事件の相談や意見交換ができればと思い、開催を決めました。

昨日は、記念すべき第1回を開催しました
若手を中心に15名ほどの先生が参加してくださり、とても盛り上がりました。
今回のテーマは、「接見に行ったら否認だった!何を聞くべきか?」というものでした。
まず、前半は、このテーマについて僕が講義を行いました。参加してくださった皆さんと双方向で話をしつつ、否認事件における接見のポイントをお伝えしました。そして、いろいろな否認事件のモデルケースについて、どう対応すべきかなどを皆で議論しました。

後半は、設定したテーマとは関係なく、参加していただいた先生方が刑事事件で抱えている悩みや、素朴な疑問をお話ししてもらい、当事務所の弁護士がアドバイスをしたり、参加していただいた皆さんと議論をしたりしました。
新人の方によくあるお悩みから、興味深い問題提起などもあり、とても盛り上がりました。

刑事事件の弁護というのは、時に孤独なものです。
弁護人は、依頼人のために、ほかの誰を敵に回しても、国家機関と戦わなくてはなりません。
また、刑事事件の経験が少ない事務所も珍しくなく、新人は悩みを一人で抱えがちです。
ですが、刑事弁護に全力で取り組もうとする弁護士は、みな同志です。
東京ディフェンダー法律事務所は、刑事事件に取り組む若手を応援します。そして、ともにそれぞれの依頼人のために全力を尽くせるよう、情報交換、意見交換をしていきたいとおもっています。

今後も、定期的にゼミを開催する予定ですので、刑事事件でお困りの若手弁護士の先生方、お気軽にご参加ください。
次回の日程は7月15日水曜日です。
ご興味のある先生方、ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

2015年4月21日火曜日

「チャレンジ」

昨年末に、「事務所の刑事事件以外に、個人の弁護士として、新しい分野に挑戦したいことがある」という旨の記事をかきました。
内容は申し上げていませんでしたが、いま書きます。

「新しい分野」とは、ずばり、「テニスに関する法律業務」です。

このブログでも紹介した通り、私の最大の趣味はテニスです。
心の底からテニスが好きだと思います。
しかし、私にはテニスの才覚はありませんでした。
少なくとも、テニスを生活の糧とするような力はありませんでした。
私は法律の道を選びました。
法律の勉強を始めてみて、私は法律が得意だと思いました。
司法試験を受け、法律の専門家になりました。

私はテニスが好きです。
テニスというスポーツ自体を応援したいと思っています。
ですが、私がいくらテニスをやっても、テニスを直接支援することはできない。
テニスを見て選手のウンチクを垂れても、だれも得しない。
それなら、自分の専門性をテニスというスポーツの応援に活かすことはできないか。
こう考えたわけです。

テニスにも、たくさんの法律問題があります。
テニス中の事故、用具の売買と言った身近な問題から、テニスクラブの経営にまつわる、労使問題や不動産などの問題。
選手の育成のために伴う契約・法律問題。
もっと話を大きくすれば、プロ選手と用具メーカーなどとのスポンサー契約。
こうした場面それぞれに、法律家がかかわる余地があります。

一般的な契約問題でも、私なら、ほかの弁護士よりもテニスの現場を知っているかもしれない。
小さなことからでも、テニスに関係する人たちが法律的な問題で困っていたら助けたい。
そうすれば、すこしずつでも、日本のテニス界がよくなるのに貢献できるかもしれない。
日本から、世界で活躍できるような選手が出てくるための、一翼を担えるかもしれない
・・・・
と、妄想は膨らむばかりですが、とにかく、自分が好きなことに、自分の専門性を活かしてかかわることができたら、とても有意義なことだと思うのです。

まだまだ、種をまき始めたばかりですが、いろいろとトライしていこうと思います。
刑事事件は引き続き得意分野として極めていくつもりですが、個人的な分野として、少しずつでも、弁護士としてテニスに関わっていきたいと思います。

2015年3月31日火曜日

新規弁護士加入

明日から,東京ディフェンダー法律事務所に,久保有希子弁護士が加入します。
依頼人の方への優しさ・丁寧な対応と,検察官や相手方と戦う強い心を併せ持った女性弁護士です。


久保弁護士は,大手企業法務事務所に数年在籍された後,高輪共同法律事務所に在籍され,様々な事案を担当されてきました。
刑事事件には特に注力され,重大案件も含め,これまで多数の刑事事件を担当し,無罪判決獲得など多数の実績も重ねてきました。
日弁連などでも各種委員会にて精力的に活動され,日本の刑事弁護の最先端を行く弁護士の一人であるということができるでしょう。


この度,刑事事件に特に注力している東京ディフェンダー法律事務所に移籍が決まりました。
私自身,久保弁護士と共に弁護士活動に携われることをとても誇りに,とても嬉しく思います。


久保弁護士のブログにもリンクを貼らせていただきました。
おもしろいです。民事事件に関する記事などもあり,参考になりますね。
今後も,事務所事件とは別に,個人で民事事件もおやりになるようです。


既に何件か事件を一緒に担当させていただいていますが,今後も一緒に弁護士活動をするのが楽しみです。

2015年3月18日水曜日

「刑事事件 弁護士の選び方」

前回の更新より1ヶ月経ってしまいました。
新しい事件のご相談やご依頼,裁判員裁判の準備・法廷で忙殺されており,更新ができませんでした。
裁判員裁判は国選弁護事件でした。当然ですが,全力を尽くしました。依頼人も、結果には満足していました。私選弁護も国選弁護も担当しますが,変わらずすべて全力を尽くします。もちろんこれは,偉そうに言うようなことではありません。当然のことです。しかし,巷には,「私選の方が国選よりいい」というような噂というか情報というかが,流れているようです。
そこで,そのことを今日は書きたいと思います。
タイトルをつけておいて何だという感じですが,「弁護士の選び方」なんて大上段の話をする度量はありません。ただ,日々刑事事件の弁護士の選び方についてよく聞く誤解について話したいと思います。

その1 私選弁護の方が国選弁護よりも優れている?? 
よく言われますが,必ずしもそうとは限りません。
私は,私選弁護人が解任された事件で国選を担当したことがありますが,解任前の私選弁護人の活動が,私から見れば質が悪いと感じられたことが多々ありました。
逆に,国選弁護人の活動に不満があるとご相談にいらした方から話を聞き,国選弁護人の先生は良くやっている,変える必要はないと助言をしたこともあります。
あくまで,弁護の質は,私選か国選かということではなく,その弁護士の技量によります。


その2 ヤメ検弁護士を選任した方がよい?? 
これも良く聞く話です。
「ヤメ検」とは,検察官をやっていたが,引退し,弁護士になった人のことをいいます。
こういう話は,「「ヤメ検」は古巣である検察官にパイプを持っている,便宜を図ってもらえる」という意味でされることがあります。しかし,これは明らかに誤りです。検察官は,そんなに甘くありません。
一方で,もと検察官ですから,捜査の実情はよく知っていると思われます。その知識が,弁護活動に役立つこともあるでしょうから,一概に誤りであるともいえません。
結局,ヤメ検弁護士を選任した方がいいかどうかという点についても,個別の弁護士の力量によります。検察官的な視点ではなく,「依頼人のため」という弁護人的な視点を正しく持てているかについても,注意する必要があるかも知れません。


その3 ベテラン弁護士を選任した方がよい?
刑事弁護は,年を取るだけでできるようになるものではありません。
素晴らしい熱意を持って刑事弁護に取り組む若手はたくさんいますし,それで結果を出す若手はたくさんいます。
他方で,年を重ねる中でろくに勉強もせず,適当な弁護活動を行う弁護士をたくさん見ています。
もちろん,長年刑事弁護に携わり,研鑽を怠らず,輝かしい弁護活動を行うベテラン弁護士を私もたくさん知っていて,とても尊敬しています。
結局,どういう年齢の弁護士を選ぶかではなく,熱意や技量を持っている弁護士を選ぶということの方が重要です。


その4 インターネットで「刑事に強い」と謳っている事務所なら大丈夫?
昨今,弁護士の広告が解禁され,多くの法律事務所がインターネットを用いた広告宣伝をおこなっています。
しかし、ここで言っておきたいのは、インターネット上で刑事事件について大々的に広告している事務所であれば大丈夫だとは限らないということです。
考えてみれば当然のことです。広告宣伝にお金をかける弁護士が、必ずしも刑事事件の弁護能力に長けているということにはならないのは当たり前です。
実際に、こういった広告を大々的に行っている事務所について、専門家から見れば、その能力に疑問を感じざるを得ない事務所はあります。一方で、ホームページで宣伝をしている事務所でも、専門家から見てもきわめて評価の高い弁護士が所属している事務所もあります。もっというと、ホームページを持っていない法律事務所あるいは弁護士で、すばらしい能力を持った刑事弁護人といわれている弁護士も何人も知っています。
しかし、それを、一般の方がインターネットを見て判断するのは、ほぼ不可能に近い状況だとおもいます。
インターネットだけではなく、実際に弁護士その人を見ることが重要です。また、私自身過去の依頼人の紹介や、ほかの弁護士の紹介でご依頼をいただくケースもたくさんあります。弁護士を探す方法はインターネットだけではないということも頭に入れておくほうがいいと思います。


さて,ここまで,「結局,人による」というような回答しかしてこなかったわけですが,情報も限られた中で、どうすればいいのでしょうか。
それは、もし弁護士選びに困った場合には、まず弁護士に直接会うことです。国選だから信用できないと即断したり、ヤメ検を選べば大丈夫と即断したりするのは危険です。インターネットを用いて探した場合も、まずは弁護士と話してください。そして、できれば比べてください。
限られた時間の中で、弁護士選びは簡単ではないと思います。そういう方がこの記事にたどり着き、少しでも助けになれば幸いと思います。


・・・・・以下、傍論で少し難しい話です・・・・・
なぜ、「国選より私選」とか「ヤメ検は検察官にパイプがある」とか、そういう何の根拠もないうわさが蔓延するのでしょうか。
もちろん、実際にろくな弁護活動をしない国選弁護士はいるんでしょうし、根拠がゼロだとはいいませんが、あまりにも「おおざっぱな」判断すぎます。
私の仮説は、「精緻化見込モデル」による説明です。
「精緻化見込モデル」は社会心理学上の概念で、説得や広告などに接した人の態度の決め方には2種類あるということを提示したモデルです。マーケティング等の学問にも応用されます。
この2種類の態度の決め方のひとつは「中心ルート」。発信された説得や広告の内容をきちんと分析し、自分の記憶や経験・知識と関連付けて自分の態度決めるルートを言います。たとえばラケットを買うときに「このラケットは重さ○○グラムで、バランスはトップライトだから自分のプレーに合っている」という判断をすることをいいます。
もうひとつは「周辺ルート」。これは、発信された説得や広告の内容について詳細な検討を行わずに周辺的な情報から態度決定をすることをいいます。たとえば、「錦織選手が使っているから、自分もこのラケットを使おう」と判断することです。
さて、このうち、中心ルートは、説得や広告の内容を十分に理解することができ、かつモチベーションの高い場合に用いられると考えています。一方で、周辺ルートは、説得や広告の内容がその人にとって理解不能な場合に用いられると考えられています。上のラケットのたとえも、わかった方とそうでなかった方がいらっしゃるかと思いますが、ラケットに関する細かな情報がわからない方は、どれを買っていいか分析できないので、錦織選手のラケットを選ぶかもしれません。他方で、日常生活上の食事などの判断は、皆さんも中心ルートを用いて判断する場合が多いのではないかとおもいます。

弁護士を選ぶ場合はどうでしょうか。
どの弁護士が刑事弁護の能力があるのかなんてことは、はっきり言ってきわめて専門的です。一人一人の弁護士の力量や能力を精密に分析して判断することが難しいからこそ、周辺ルートを用いて、「私選がいい」「ベテランだから」「ネットで刑事に強いって出てるから大丈夫」という単純な判断になってしまうわけです。
私たち弁護士には、何が優れた弁護活動かについて、あるいはどのように弁護士を選ぶかについて、一般の方に正しく、わかりやすく伝える使命があると思います。一人でも多くの一般市民が、少しでも正しく弁護士を選べるような情報を得ていくことで、徐々に、弁護士選びのマーケットが正常に機能するようになると思います。

2015年2月11日水曜日

「刑事事件の弁護士費用」

近時,弁護士の広告宣伝が解禁され,インターネット上でも,様々な法律事務所が広告を行うようになりました。
また,弁護士費用の設定についても,各法律事務所で様々な個性が見られます。
以前は,弁護士会が,各弁護士の報酬の標準を定める基準を作り,多くの弁護士が,これに従った価格設定をしていました。しかし,数年前,この基準は撤廃され,弁護士費用の設定は自由になりました。

費用の設定が自由であることはとても重要です。
費用の設定が自由であることによって,各弁護士事務所が,よりたくさんの人にご相談に来ていただくことができるような価格設定を競争します。価格設定に対して,よりよい法的サービスを提供できるよう,法的サービスの質をも向上させます。
こうして,全体として見れば,一般の方々によりよいサービスをより安価で提供することができるようになりますし,依頼人から見れば,より良い法的サービスにアクセスすることが容易になるのです(もちろん安いばかりがいいというわけではありませんが)。

このように,一般の方々がよりよい弁護士の法的サービスを受けられるようになるために,価格設定の自由は非常に重要なことだと思っているのですが,近時,「この価格設定は問題だろう!」と思う価格設定を目にすることがあります。



その1 保釈が認められた場合,保釈保証金の●パーセントを報酬とする

保釈とは,起訴後,拘束されている被告人を釈放するための手続です。一定の保釈保証金を裁判所に収めることで,裁判まで拘束を解放されるのです。
この保釈保証金の金額は,裁判所が決めますが,その際に弁護人が裁判所と交渉するのが一般です。依頼人の負担が少しでも少なくなるよう,交渉します。裁判官が200万といったら,150万で何とかなりませんか,と交渉します。
ここで,保釈金の額の何パーセント,という報酬基準だったらどうでしょうか。弁護人が交渉すればするほど,弁護人の報酬が下がってしまいます。弁護人に,依頼人のための粘り強い交渉が期待できるでしょうか。
弁護人は,依頼人の利益を追求する義務を負っています。ですから,弁護士の報酬は,依頼人のための活動と連動する必要があります。相手から回収した額の●パーセント,とか,無罪の場合は●円,という報酬の定め方であればよいのですが,依頼人が負担する保釈保証金を基準に報酬を決めると,依頼人の利益と弁護士の利益が相反してしまうのです。
弁護士は,依頼人の利益と自分の利益が相反する事件を受任してはいけない義務があります。弁護人の役割は,依頼人の利益のために活動することだからです。事件自体の利益が反しているわけではありませんが,具体的な弁護活動の場面で依頼人との間に利益相反が起こるような価格設定は,このような弁護人の義務・役割に反していると思います。


その2 捜査弁護の着手金●円(ただし,接見3回まで

捜査弁護とは,裁判になる前の弁護をいいます。身体拘束されている依頼人に弁護人が会いに行って(「接見」といいます),取調べに対する対応をしたり,身体拘束から解放されるための活動をするのが中心になります。ですから,接見は捜査弁護の最も基本的な活動です。
あなたが歯医者に行って「痛かったら,左手を挙げて教えて下さいね。ただし,3回まで。4回目からは,追加で費用が発生します。」といわれたらどうでしょう。痛いって言いにくくなりますよね。そもそもそんな歯医者には次からは行かないかも知れませんが。
接見も同じです。犯罪を疑われ,拘束された依頼人は孤独です。心の「痛い」を抱えています。一度でも多く接見に来て欲しい。しかし,3回までしか基本料金で来てもらえないのなら,接見に来て欲しい,と言うのを躊躇してしまいます。そういう状況で,果たして依頼人のためにベストな弁護ができるのでしょうか。
そもそも,捜査段階の弁護活動で,接見3回で十分な活動をできる事件は,少なくとも私の経験上は,ありません。正しい弁護活動をすれば,最初の3日で使い切ってしまう事件もたくさんあると思います。
弁護人には,受任した事件について,依頼人のために最善の努力をする義務を負っています。受任しているにもかかわらず,最大限の弁護活動を躊躇させるような価格設定は,この義務に反するおそれがあるのではないかと思っています。もし4回以上接見するには費用が十分でないなら,もっと最初から高い費用をいただいて,この費用でできることはすべてやる,接見回数の制限などもしないというほうが,よっぽど健全だと思います。


刑事事件の弁護士費用の設定は自由であるべきです。
しかし,それは,「依頼人のため」という弁護士の本分に反するようなものであってはいけないと思います。

なお,私及び私の所属する事務所では,保釈の報酬はいただいておりませんし,接見回数の制限はありません。
事件自体の着手金をいただけば,必要な弁護活動はすべて行います。

2015年1月30日金曜日

「法律相談」

10日に1回!が途切れました。今月2度目の更新です。
だれも気にしてはいなかったと思いますが・・・

さて、おかげさまで、たくさんの法律相談のお問い合わせをいただいております。
当事務所のホームページ等をごらんになってのご相談が多いですが、時には以前の依頼人のご紹介ということもあり、うれしい限りです。
今日は、その法律相談のお話です。

法律相談の役割は、もちろん、法律にまつわる悩みをお聞きし、それに法的助言を与えることです。
この役割をもう少し細かく分割すると、「お聞きする」役割と「助言を与える」役割に分けられます。

まず、「お聞きする」ことです。
私の信条は、徹底的に依頼人の話を聞くことです。法的助言のためには、正確に事実関係を把握することが必要です。事実を間違って把握したら、正しいアドバイスはできません。
事実を正しく把握するためには、質問の技術が必要です。言葉のコミュニケーションというのはむずかしいもので、 同じことを聞くのでも、聞き方ひとつで全く把握できる事実が違ってきかねません。
たとえば、最も基本的な技術として「オープンクエスチョン」があります。「あなたの朝ごはんはパンでしたか?」ときくより、「あなたの朝ごはんの内容を教えてください」と聞くほうが、正確に朝ごはんを把握できるはずです。今のは一例ですが、こうした質問の技術を、ご相談の際、あるいは依頼人との接見の際など、人から事実を聞く機会には常に意識しています。
そして何より、ご相談者の立場に立って考えることです。何を聞きたいのか、何を求めているのか、相談者の気持ちに沿って、丁寧にコミュニケーションをとることは重要なことです。

そして「助言を与える」ことです。
親身になって話を聞くことは、ある意味、誰でもできます。
聞いてからも重要なのです。「お聞きする」段階での、相手の気持ちに沿うモードをいったんリセットします。親身になることは重要ですが、ご相談者に肩入れして肯定するだけでは正しいアドバイスをしたことにはなりません。的確に事実を分析して助言するためには、冷静な視点が絶対に必要です。
そして、助言はできるかぎり明確でなければなりません。もちろん、職業柄、「絶対こうだ」とは言いにくい場合がほとんどです。お医者さんと一緒です。しかし、「Aという選択肢もある、Bという選択肢もある、自分で考えてね」では、法律相談の意味はありません。
できるかぎり、明確に、「こうすべきだ」「こうなる可能性が高い」という助言ができなければなりません。

弁護士が専門的職業として提供する法律相談は、単なる人生相談であってはいけません。
事実を聞く技術、助言を与える技術、そのどちらもが専門的技術として提供されねばなりません。
しかし、わたしも人間です。
技術だけで動いているわけではありません。法律相談や事件を担当する中で、心を動かされることはたくさんあります。この方のためにできることをしたい、それが多くの事件での原動力となっています。
法律相談にいらっしゃる方は、皆、とても不安な面持ちでやってこられます。相談が終わり、いらした時とは違う少しほっとした表情でお帰りになるのを見ると、この仕事をやっていてよかったと感じます。

2015年1月12日月曜日

「冤罪」

ブログをいつもご覧の皆様,明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。


さて,新年初の投稿ということで,初心に返るというわけではないですが,昔の話をしたいと思います。
話自体は,とてもくだらない話です。


僕が小学生くらいの時でしょうか。
僕は袋入りのお菓子を持っていました。
小さな袋に入ったそのお菓子を,僕は食べていました。
お菓子の量も少なくなってきました。
僕は,残りのお菓子を食べてしまおうと,袋に口をつけて上を向きました。
お菓子を一気に口に流し込もうとしました。
その瞬間でした。
家族の一人が,僕に向かって「弟の分も残しておきなさい」と言ってきました。
しかし,その言葉が聞こえた瞬間には,もう袋の中のお菓子は僕の口に流れているところでした。
とっさに袋を口から離しましたが,お菓子はすべて口に入ってしまいました。
それ自体は,弟に申し訳ないと思いました。
しかし悲劇はその先にありました。
僕に残しておきなさいと言った家族が,
「残しておきなさいと言われたから,独り占めするためにお菓子を全部口に入れた」
という主張をしてきたのです。
争点は,「残しておきなさい」という発言と,お菓子を口に流し込んだ事実の先後関係です。
僕は,必死で,聞こえる前に食べてしまったんだと訴えました。
しかし,聞いてもらえませんでした。
泣きながら,自分は無実だと(いう言葉遣いはしてませんが)主張しました。
しかし,受け入れられませんでした。
僕は,弟に取られないようにお菓子を独り占めしたバカ兄貴ということになってしまいました。
僕は当事者ですから,真実を知っています。
この事件は冤罪です。
それ以来,僕は,証拠もないのに何かを決めつけることについて,大きな嫌悪感を抱くようになりました。


はい,くだらない話ですね・・・
でも,僕がいま弁護士として活動をする中で「やっていない」という依頼人の悲痛な訴えを聞くとき,このエピソードが頭をよぎることがあります。もしかしたら,弁護士として今やっていることの根底に,このエピソードの経験があるかもしれません。
刑事事件は,過去の事実があったかなかったかを判断します。ですから,明確な証拠が無い場合も多く,断片的な証拠や,人の証言によって事実があったかなかったかを判断するのです。
そして,時に,僕の嫌悪する「決めつけ」が起こります。
決めつけによって,犯罪者とされてしまったり,刑務所に行かなければならなかったり,場合によっては死ななければならなかったりするようなことがあれば,それはくだらない話ではとても済まされません。
こういう悲劇が起こらないよう,誰もが,当事者の話に真摯に耳を傾けなければいけないと思います。捜査機関や裁判官,もちろん弁護人もです。


普段の弁護活動であれば,依頼人の話を聞くことを怠ることはありません。
それと同じで,僕が将来父親になったりすることがあったら,感情的にならずに,きちんと子どもの言い分にも耳を傾けてあげようと思います。できるか不安ですが・・・(笑)